JICA海外協力隊の世界日記

スリランカ便り

Kandyで最も貧困な地域に射す光 ~Mahaiyawa公衆トイレ清掃・壁画プロジェクト~ part1

ここは、Kandy(キャンディ)。
スリランカの中部に位置する、人口約10万人の街。
かつては約300年間にわたり王朝が栄え、210年前にイギリスの植民地となるまでシンハラ文化の中心として繁栄した。
現在は、街そのものが世界遺産登録されている、歴史と伝統の息づく古都である。

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街の中心部から北へ歩いてわずか10分。
Kandy市で最も貧困層が暮らす地区、「Mahaiyawa(マハイヤーワ)」はそこにある。

半径100m程度の居住区に428世帯が暮らす人口集住地区。典型的な家の間取りは、横2.5m・縦4mほどの部屋が1つ。小さなキッチンと、トイレ兼用のシャワー室があるだけだ。家と家の間隔はほとんどなく、玄関のドアを開ければすぐ隣家のドアが見える。

街の清掃員の多くがこの地区の出身で、収入は決して高くない。その結果、貧困の連鎖から抜け出せずにいる家庭も少なくない。

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この地区の最大の課題は、劣悪な衛生環境だ。
通りにはゴミが散乱し、それを気にする人もいない。
下水道は整備されておらず、大雨が降るとマンホールに溜まった汚水があふれ出す。
坂を伝って流れた汚水は街中へと広がり、玄関に段差のない家では室内まで流れ込む。


危惧すべきことは、そこで暮らす小さな子ども達がいることだ。

この環境が子どもたちの健康に悪影響を及ぼさないはずがない。

私は、この現状を目の当たりにして大きな衝撃を受けた。

日本で暮らしていては、決して出会うことのない光景だった。
そして、JICA海外協力隊として同市に派遣され環境教育に携わる者として、Mahaiyawa地区を素通りすることはできないと感じた。


住民に話を聞きながら、私にできることを模索した結果、1つの方向性が見えてきた。
それは——トイレの衛生環境を整えることだった。

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2010年、JICAの有償資金協力によりKandy市下水道整備事業が開始された。その事業のほんの一部分として、この地区に11棟の公衆トイレが建設された。
家庭にトイレのない多くの住民にとって、この事業は非常に意義深いものであった。

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しかし、事業が市から地域住民に引き継がれた後のトイレ運営は、地域によって状況が異なる。
掃除当番をきちんと決めて、うまく運営している地域もあれば、扉が壊れ、排水が詰まり、電球が盗まれて夜は真っ暗というトイレも少なくない。

清掃も十分に行われず、衛生状態は悪化。
夜間には飲酒や薬物使用の疑いがある人がトイレ付近に出入りしており、
「安心して使えない」という声も住民から聞かれた。


——このままで良いのだろうか。

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Mahaiyawaに暮らす子どもたちは、屈託のない、まぶしいほどの笑顔を見せてくれる。

そして人懐っこい。
その笑顔を見るたびに、この環境とのギャップに胸が痛んだ。
子どもたちを見守る大人たちの願いはただ一つ。
「子どもたちに、安心して暮らせる環境を与えたい」ということだ。

——子どもたちこそ、この地区に射す光なのだ。——


住民と話し合いを重ね、私は彼らとともにこの問題の解決に取り組むことを決めた。

次回は、住民とともに行った活動の内容、そこに込めた思い、
そして実行までのプロセスについてお伝えしたい。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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